日記:20221027 表面をすべる善意

日記というよりこの1か月くらい考えていたことを文字にしたのが今日だった、的なもの。

 

 少し前に帯状疱疹になった。現在、症状はすっかり落ち着き、痕が薄くなるのを待つばかりである。

 最初に発疹が出たのが、たまたま前日露出していた服のラインに沿った部分だったので、虫刺されか、植物にかぶれたのかと思った。それから数日のうちに、身体に細く響くような痛みがあらわれ、皮膚科に行くことにした。母が若い頃に帯状疱疹になったと聞いたことがあったので、もしかしてとうっすら思ってはいたのだが、本当にそうだとは。仕事を休みたかったが鎮痛剤を飲めば痛みはない。テレワークが許されている。人手は足りていない。そうなれば休む理由はない。会社のイベントのため12時間勤務などをこなしつつ、なんとか日々を繋げた。

 皮膚科を受診したとき、医師に言われた。

 早く受診してね、あなたみたいな若い女性だと、肌に痕が残るとよくないからね。

 ある程度回復してから出社したあと上司に言われた。

 もう大丈夫なの?それはよかった。やっぱり、女の人だとね。見えるところに痕が残ったりするとよくないからね。

 私は、そうですね、と言うことしかできなかった。

 頭のなかではうるせぇよと思いながら、若くても年食ってても男でも女でも、肌に痕が残るのを気にする人は気にするし気にしない人は気にしないだろと思いながら、どうせ上手に喋れないし、どうせ自分でちゃんと喋る前に感情に追い越されて泣いてしまうし。そうですね、と言って、それからすみません、とか、ありがとうございます、とかを適当に喋ったと思う。

 なんでからだのこと心配されるのに「若い女だから」って言われなきゃなんねーんだよ。関係ねーだろうがよ。私が人前に出るような、美しくあることを求められる仕事をしていたとしたらまだ言われることに理解はできる(それでもどうかとは思う)けど、社外の人と顔合わせることもほぼないデスクワークの人間が、なんでそんな心配の言葉かけられなきゃいけないのか。そう心配、気遣い、善意のことばだってわかってんだよ。若い女は自分の見た目を気にすると思っていて。若い女の皮膚に傷痕やなにかしらがあると恋愛市場で不利になるとされていて。私がまだ若者と形容される年齢であること、肉体の性別が女であること、現状性別違和を抱えていないこと、全部ほんとうだけどそこから勝手に飛躍した心配をしてくるなと言いたい。言えなかったけど。

 ほんのちょっとでも声をあげることの大切さは重々わかっているけれど、医師はきっと根っからの善意で発言したのだし、私以外の患者さんが控え室で待ってるし。上司もきっと根っからの善意で発言していて、同時に私と対話しようとは思っていないんだし。私がだいぶ良くなりましたと伝えたから、その応答として「それは良かった」を示したかっただけなのだ。「それは良かった」を示すために、自分の引き出しのなかにあるものを使っただけ。それに対して、「痕が残るとよくないってどういうことですか?」「なんで女だとそうなるんですか?男女関係なく肌に痕が残るとへこむ人は多いんじゃないですか?」なんていう会話は求められていない。求められていないからこそやらなきゃいけなかったのかな。むりだ。できない。

 こんな些細なことで悩めるなんて幸せだなって冷笑する自分が存在しているのもいやだ。嫌だ。気持ち悪い。

 こういうことがあると、つくづく無性の存在になりたいなと思う。そしたら性別を理由に『優遇』されることも線を引かれることもないのに。

 FLATな世界で生きたいよ。